’00.11.5.

 ひーちゃんが家へ来て、最初にされたことは台所の湯沸かし器でのシャンプーでした。2、3日外を彷徨ったらしく、白い毛は汚れていて、何よりもノミが付いているかも知れないことが心配されました。湯沸かし器でシャンプーされている間、ひーちゃんは自分がどう言う状況に置かれているのか、理解できないようで、私にされるがままにおとなしくしていました。そして、その時うちには9匹のネコがいて、突然見知らぬ仔猫が連れられて来たのを不思議そうに、遠巻きに見ていたのです。

 無事にシャンプーを終え、タオルで拭かれたひーちゃんは、ようやく御飯にありつくことが出来ました。でも、今度はうちのネコ達の御挨拶が待っていたのです。御飯を食べている横から、匂いを嗅ぎに来るネコ。近くへは行かずに、うなり声だけで威嚇するネコ。その存在を全く無視するように、昼寝を続けるネコ。と、それぞれの反応がありました。御飯がお腹の中へ落ち着くと、ひーちゃんは大きなネコの方へ自分から近付いていきました。その姿はまるで自分の親ネコへ近付く仔猫の姿でした。でも、やはり親ネコではないことを、ネコパンチの応酬によって、知らされることになったのです。「シャー、フ−」と威嚇され、ネコパンチをされ、ネコ社会の厳しさを初めて味わったような表情のひーちゃんは、思わず抱きしめたくなる可愛さでした。

 さて、その晩。いつもながらネコと一緒にベッドに入ろうとすると、ひーちゃんが布団に入って来ようとします。すでにベッドの中にいるネコは怒るし、その日が土曜日だったこともあって、ひーちゃんの健康診断も済ませていなかったので、私はひーちゃんが布団に入って来ることを拒みました。でも何度拒んでも、ひーちゃんはふとんに入ろうとしました。また、ひーちゃんはトイレの躾がちゃんとしてあり、教えた場所ですぐにトイレを済ますことが出来るネコでした。もしひーちゃんが野良猫の子供で、人間と一緒に生活をしたことがなかったら、トイレの躾もお布団に入ることも知らなかったはずです。私は「きっとこの子は、どこかの家のネコで、迷子になってしまったのだろう」と思い、出来ることなら元の飼い主さんに返すことを考えて、眠りにつきました。

 次の日から私が外へ出る時には、ひーちゃんを連れ出すことが多くなりました。ひーちゃんも何も言わずに、おとなしく私に抱かれていました。ある時は肩に乗せて、またある時は上着の懐に入れて、近所の人にも見えるように外を連れて歩きました。でも誰も「うちのネコ」だとは名乗りを上げてくれませんでした。そうしてひーちゃんはだんだんとうちの一員として生活に馴染んで行きました。

 12月のある日曜日、宝くじを買いに出掛けました。もちろんひーちゃんも私のお供です。でもその日はちょっと離れた、人込みの多い場所まで出向いたのです。ひーちゃんは初めてみる大勢の人に驚き、私にしがみついていました。宝くじ売り場では、販売員のおばさまにも「あら〜、可愛いわねぇ」などと声を掛けられ、私としては「福猫」としてひーちゃんを連れて来たことに満足していたのですが、ひーちゃんにとってはあまり良い思い出にはならなかったようです。その日以来、ひーちゃんは外へ連れ出すことを嫌がり、玄関を出るとすぐに家に戻りたがる猫になってしまいました。

 現在のひーちゃんは、あの拾った日からは思いも付かないような、小さい声で鳴く、頭が大きくて、ちょっと手足の短い猫に成長しました。それでも未だに外へ出ることが嫌いで、ちょっとでも玄関から連れ出そう物なら、家に戻ってからまるで自分を捨てないことを確認するかのように甘える猫になりました。

 ひーちゃんの運命は、あの日の煮干し3つで変わったように思います。